午前中の講義を終えて時間を持て余していた俺と友人は、大学のとある建物の窓際からメインストリートをぼんやりと眺めていた。
すると、隣にいた友人の目が急に丸くなる。
俺は缶コーヒーを飲みながら友人の視線の先を目で追う。どうやらベンチに座ってお喋りをしている二人の女を見ているようだ。


「お、あの子かわいい」

「どれ?」


と言いながら、こいつの好みは十分知っている。どうせ、眼鏡の子だろう?
こいつ、大学生になっても ”眼鏡女子は眼鏡を外すと可愛い隠れ美人” という迷信を信じているからな……。そんなもんはマヤカシだぞ、幻想だぞ? 騙されるな、友よ。早く童貞を卒業するんだ。


「ほら、あの子」

「ふーん。俺は右のほうがいいな」


俺は友人を思う心から敢えて眼鏡の子じゃないほうを選択した。――ん? ちょっとまって。右の子、マジで可愛くないか?
端正な顔立ちと黒くてサラサラのセミロング、そして遠慮がちな胸の膨らみ……。俺は美人で控えめな胸の子がめちゃくちゃ好みなんだ。


「いーや、絶対に左! 左だ! 右は……なんか違うわ」


んだとこの野郎。
俺はお前がまだ童貞であることをこんなにも憂いで心配してるっていうのに……。万年、眼鏡女子ばかり追いかけてる童貞に好みを否定されるとすげぇ腹立つんだが。
てか、お前は右の子の何を知ってて、『なんか違うわ』などと言ったんだ? なんかってなんだよ? お前のせいで俺は今、モヤっとさんだよ?


「そーか、そーか。じゃー、声かけて来いよ」

「え……! そ、それは……」


男のモジモジなんて可愛くないからな。


「ほら、ぼやぼやしてると鳶に油揚げをさらわれるぞ」

「こ、こんなのただのナンパじゃないかっ!」


女みたいに真っ赤な顔で俺に迫ってくるなよ。男にされてもゾワゾワするだけだからさ。
まったく仕方ねえな、俺が見本を見せてやろう――と、俺がドヤ顔で言おうとした時だ。件<くだん>の女二人に一人の男がやって来るのが見えて、俺はとっさに言葉を呑み込んでいた。


「あ……」

「え?」

「鳶……ていうかカレシ持ちだった……」

「え!? 嘘!?」

「…………右の子…………」

「あっ……ああ! な〜んだぁ〜」

「お前……。今、ほっとしただろう?」


俺の持っていたコーヒーの缶が音を立てて凹むのを目撃して、友人が目を泳がせる。
思ったんだ……。
お前、嘘つけないもんな。


「そ、そんなことないよ!! えっと、俺ちょっと……トイレ行ってくる!」


そういう口実は使わなくていいから、遠慮なく俺の屍を越えてゆけ。
俺は精一杯の激励の言葉を友人に送った。


「裏切り者め、散ってしまえ」

「なっ何言ってんだよ!? あとで昼飯一緒に食おうぜ!! いつものところで!」

「おう」


俺に何度も手を振りながら友人は行ってしまった。

友人のナンパがうまくいくかいかないかは言うまでもないだろうから、とりあえず昼飯に何を食べるかを考えておくとにしよう。



◇◆完◆◇





2018年5月1日
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